縁結び 恋愛成就 京都地主神社だより 令和２年６月号

　季節は夏を迎えようとしていますが、今もって、新型コロナ肺炎ウイルスとの闘いは世界中で続いています。

　今年の春先には「東京オリンピックは予定通り七月に開催します。規模も時期も変更はしません」と都知事が宣言していたのですが、なんと能天気なことを言っていたのでしょうか。この新型感染症をいかに軽く考えていたのかがわかります。

　わたし達一般市民も、ウイルス禍がここまで長引くとは想像もしていませんでした。ＳＡＲＳもＭＥＲＳも経験していない日本は、政治家さえも新型感染症を甘く見ていたのです。

　人類の歴史は感染症との闘いの歴史でした。どんな時代もどんな国も、感染症から逃れることはできず、大勢の犠牲者をだしています。

　しかし、これにより人類が滅亡することはなく、今に至っています。感染症の蔓延は必ず終焉を迎え、平穏な日常はまたもどってきます。

　消毒液もワクチンもなかった時代ですら、人類は数々の感染症を克服してきたのです。辛抱強く時を待つことにより、終息の時は訪れます。

　六月は、夏越しの大祓いという神事があります。夏を無事に乗り切って、健康に暮らせますようにという神事です。神社の境内に設営された茅の輪をくぐって祈願します。茅の輪は、厄除け、災難除けの意味合いがあります。

　その昔、牛頭天王（＝素戔嗚尊）が旅の途中、一夜の宿を求めたところ、蘇民巨旦は断りました。しかし、兄である蘇民将来は牛頭天王を自宅に泊めてあたたかくもてなします。

　これを喜んだ牛頭天王は「おまえの子孫は末代まで護ってやろう」と、茅の輪を授けます。その後、疫病が流行した際、周囲で死者が大勢でるにもかかわらず、蘇民将来やその家族だけは無事に生き延びたという故事により、現在も夏越しの祓いで茅の輪くぐりをしています。

　古来より、京の都では度々、疫病が流行し、多くの犠牲者をだしています。首都ですから人口が多く、常に「密」な状態であり、感染症は瞬く間に拡がっていたことでしょう。予防法も治療法もなく、人々はただ終焉を待つしかなかったのです。

　疫病の蔓延を鎮めるために、いろんな神事が行われました。その一つが夏越しの大祓いです。

　主に素戔嗚尊を御祭神とする全国の神社で茅の輪くぐりが行われています。茅の輪をくぐることで罪穢れを祓い、健やかな心身を得て、過酷な環境を生き抜いていこうという古人の思いがあらわれています。

　茅の輪のデザイン、意匠については、同じ京都市内といえども、いくつかのバリエーションがあるようです。

　わたしが知るかぎり、芯にかっちりと茅が巻かれているデザインがほとんどなのですが、なかには茅をかっちりとは巻かず、敢えて先端の葉をそのままにしたワイルドなタイプもあります。遠くから見ると、なんだか南国の風景のようでもあり、夏らしい雰囲気があるといえばあります。

　クーラーも扇風機もなかった時代、酷暑を乗り切るのは大変なことであり、体力を落とす人も多かったでしょう。

　現在も、夏は脱水症で救急搬送される人が少なくありません。昔も今も、夏を無事に越すことは切実な問題です。

　くわえて今年は、新型コロナ肺炎が流行しています。世界規模の流行なので、本当の終息には時間がかかります。未だ有効な治療法は確立されておらず、ワクチン接種も実施されていませんし、いつ実現できるのかも確定していません。

　医学の進歩した現代においても、無病息災は簡単なことではなく、どんなに元気で健康な人でも明日はどうなるかわかりません。

　夏越しの大祓いは、六月三十日です。地主神社の境内にも茅の輪が設置され、例年、大勢の参拝者が訪れて無病息災を祈願しています。

　今年も神事は行われる予定ですが、その頃、京都は、関西は、国内は、どのような状況であるか、想像もつきません。

　たとえ感染者数が減少傾向であったとしても、その後必ず第二波、第三波が来ると専門家は警告しています。なので油断はできません。

　皆さまも、どうか息災にお過ごしくださいますように。